海の仙人 - 絲山秋子 -

海の仙人

海の仙人

 過去の遺産パート6

 絲山秋子さんが近頃のお気に入りである。といっても、海の仙人と袋小路の男しか読んでないんだけど。

 どこが好きか。この突き放した視点。この独特の距離感は一度でも「気づけば引き離されていた」人にしかわからないと思う。冷たくも暖かくもない、ただの目線。読むにつれその溝にいろんなものが落ちて積もってゆく。冷たくなってゆく。拾ってほおずりしてやってもいい。でもそんなことはしない。できない。相手を傷つけるだけだとわたしは感じるから。

 誰かを救うと言うことは、厳密に言えばきっと出来ないことなんだと思う。救えたとしたらそれはリポビタンDのCMのような奇跡だ。どちらも全力の力で握り合わないといけないし、ベクトルだってせめて似たような方向を向いてないといけない。もちろん相手を選ばなければいけないし、片方が「救ってやったぜ」と思っていてもダメだと思う。人間は利用できても支えあうことはできないのかもしれない。

 なんて悲観してみたりして。本当は支えあうことも救うこともできると思いたい。現にこの本の中に書かれているのは、わかりやすくはないけれど、間違いなく救いだとわたしは感じた。

 複雑な世の中で、複雑になってゆくひとりの人間に、寂しさと言う隙間を開けることなく当てはまる人間が見つかるのと同じくらいの奇跡が、彼らに起こって欲しいと願う。

 ちなみに、7年後の再読の記事はこちら