不思議の扉 ありえない恋


 古今東西、恋愛は人を狂わせる。時に人以外も狂わせる。恋愛とは恥ずかしいものだといったのは太宰治だった。恋愛とはなんぞや。大盛り(盛ってどうする、大森さんの間違い)望さんがチョイスした恋の話。

サルスベリ 梨本香歩
*いそしぎ 椎名誠
*海馬 川上弘美
*不思議のひと触れ スタージョン(訳:大森望
*スノードーム 三崎亜記
*海を見る人 小林泰三
*長持の恋 万条目学
*片腕 川端康成

 よく考えたら半分ぐらいは読んだことがある短編だった。うっかりさん。でもこの本の醍醐味は大森望さんの解説にあると思っている。大森望さんは多彩で博識でオタクだ。文学賞メッタ斬りで知った人だが、これほどオタクはなかなか見ない。大塚英志ぐらいか。でも大塚は教授だしな。

 個人的に好きなのは、やはり川端康成の「片腕」だ。心が震える。恐ろしいような愛しいような、そして限りなくエロい。変態すぎる、だが美しい。その片腕に具体的な何を求めるというのか。

 万条目さんはモルホーを読もうかなと思った時期もあったけれど性に合わないような気がしていて控えていた。森見登美彦さんに似ているというと怒られるだろうか。時を越えた恋愛は確かに魅力的なのだが、アニメチックでどうも合わない。どちらかというと、小林さんの「海を見る人」のほうが好みである。

 三崎さんの「スノードーム」は今の人間同士の物語だ。ガラスが隔てるだけのことで、そこで起こっている事は今、クリスマスの物語だった。真夏の空の下で読むことになるとは。しかし、クリスマスは恋人の季節ですから。

「いそしぎ」と「海馬」と「サルスベリ」は見事にストライクゾーン。どの作家さんも好きです。川上弘美さんのは龍宮に収録されていた記憶が。違ってたらごめんなさい。どちらも人ではないものに愛され、もしくは愛した物語。小説の中では種別は関係ない。それは冬の切れるような冷たい空気のような現実だ。特に「いそしぎ」が切なくて好き。

 大森さん本人が訳した「不思議のひと触れ」は久しぶりの海外文学。この調子、この感じがすぐに馴染めないまま終わってしまった。二度も三度も読んでしまう。ともかく情景が美しい。見たこともないはずなのに、そんな気にさせるとは恐ろしい。

 アンソロジーのいいところは、いろんな作家の文章が読めるところだ。罪なところは浸りきれないところだ。どれも恋愛小説ではあった。しかしSFや正統派が入り混ぜられて、もう一冊で異世界のようだった。