- 作者: 多和田葉子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/03/04
- メディア: 単行本
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実験的な文章、というのはこういうものを指すのではなかろうか。
非常に短い文章でとつとつと語られるエピソード。それに添えられる鏡に映ったような反転した文字。エピソードはそれぞれ繋がっていくけれど、それはショートムービーを見ているような、そしてその複数のショートストーリーが一つの物語となっているような、そんな物語。
どちらかといえば、苦手な分類なはずなのに、なぜか頁をめくる手が止まらない。それは「読ませる」文章であるからだとわたしは思う。先が知りたいのではなく、目が留まれないの。それがこの人の文章であり、「言葉」に対するアソビじゃないかと思う。
わたしは残念なほどに日本語しかできない。英語は簡単なのなら聞けば分かるけれど、話すことはできない。多和田さんは何ヶ国語かを操ることができる。その違いをバンと突きつけられたらこんな形なのじゃないかと思う。
でも、可能であれば彼女の物語的物語を読みたいと思う。ショートで可能な範囲をはるかに越えた作品ではあるが、わたしの好みとは少し違うから。
でもこれは、ひとつの画期的な小説の体をなしていない小説だと思う。大きな詩、とでも言えばいいのか。これを可能にできる人は、今多和田さんしかいないと思う。