沼地のある森を抜けて

沼地のある森を抜けて

沼地のある森を抜けて


 この不思議な物語は図書館で借りてきて「買わねば」と思わせた。遠野物語+生物学といった感じ。梨木さんの本は初めてです。西の魔女が死んだのほうが有名だというのにね。

 読み始め、まさかここまで大きな物語になるとは思えなかった。けれど気がつくと生命の出自を問うところまできてしまった。ああ、わたしの大好きだった生物学がこんなふうに物語に息づいてなんて嬉しいことなんだろう、と思った。

 物語はぬか床から始まる。ぬか床。なんとも日常的なものである。うちの実家にもある。しかしわたしは糠漬け自体が好きじゃないのであまり食べないが、ぬか床は家庭によっては「先祖代々」受け継がれるものであることは知っていた。

 ぬか床からカッサンドラが出てきたあたりから目が離せなくなった。カッサンドラは結局誰なの、なんなの、端々で出てくる菌とか遺伝子とかと関係あるの、ってもうとにかく目が離せなくて買ってしまった。だって図書館の本はスピンが短くなりすぎていて使えなかったんだもん……。

 物語はどんどん進み、同時にパラレルだと思われる世界も語られ、ぬか床は元の沼地に戻る。そして生命が生まれる誕生の直前で物語が終わる。美しい。

 381ページ。

 世界は最初、たった一つの細胞から始まった。この細胞は夢を見ている。ずっと未来永劫、自分が「在り続ける」夢だ。(中略)生物が目指しているものは進化ではなく、ただただ、その細胞の遺伝子を生きながらえさせること。

 わたしが生物学に興味を持ったのは中学生の頃だった。細胞は意思がある、そう確信して高校生向けの参考書を買った。バカな高校に行くことは決まっていたので、そんな知識役に立たないと思ってた。でも、知りたかった。知りたかったんだ、細胞を、遺伝子を、自分を自分たらしめているものを。