少女外道

少女外道

少女外道


 初の皆川さん。内容はAmazonさんから。

この感覚は、決して悟られてはならない。人には言えない歪みを抱きながら戦前~戦後の日本をひとり生きた女性を描く表題作のほか、ラスト一頁で彼岸と此岸の境を鮮やかに越える「巻鶴トサカの一週間」など、名手・皆川博子の傑作短篇七篇を収録。

 一言で表すなら「耽美」。付け加えていいなら「乙女」。森茉莉小説を読んでいるような熟れた美しさと、江國香織さんの「抱擁、あるいはライスには塩を」のようなセピアな景色。今まで読んでいなかったとは、損した気分。

*少女外道
 言葉にしてはいけない感覚を持っている人ならば、痛いほどわかる恐ろしさがあると思う。楽しげな家族の風景の中でも、家族のだれにも気づかれることのない「死生観」を感覚で知ってしまったとして、こんな風に櫻と過ごせるのであれば、それは幸せだ。ぷつり、と皮膚が切れて血があふれる瞬間が脳裏に焼きついた。

*巻鶴トサカの一週間
 葬式の話だ。大往生した老女の葬式だから、集まる人々も初老だ。しんだ老女は死ぬ前に遺言ではなく家系図を残す。地位や名誉にこだわった家系図を。行きかう老女たちの会話のなかで親戚の画家と出会う。エゴン・シーレクリムトの弟子だが、わたしはエゴン・シーレはあまり好きじゃない。顔をぐいと向けさせられて「見ろ!」といわれている気がするの。クリムトの絵はただ見入ってしまうほど好きだけど。
 あちこち飛び交う老女たちの会話の中で、妙なほどエロティックな短編だった。

*隠り沼の
 母の思い通りにならない娘の話。というと端的過ぎるか。わたしは主人公に肩入れする。大人の言いなりにならず、ずっと焼け死んだ兎を思い続ける主人公に。ある集会でXという正体不明のものに森の動物たちがおもてなしのため贈り物をするという。兎は贈るものがないので自ら炎に飛び込んで肉をささげたと。良い話ですね、と大人はいう。良い? 正しいお答え? これって分数の割り算はなんで増えるのっていう疑問と同じだと思う。ずっと引っかかってるものがあって、大人になるにつれて思い通りにならないことの方が多いことはわかるんだけど、引っかかってるかどうかが大切なんだと思う。

*有翼日輪
 少年のメンコの話。少年のメンコに狂気を感じたのはこれが初めてだ。そうか、メンコにしろなんにしろ、ゲームは賭博性があるから禁止されやすいのか。コメという男の子は素晴らしく悪ガキで、わたしは彼に惚れてしまった。しかしコメはあっけなく死んでしまう。そしてコメにメンコを教わった圭雄は肉体だけが生きている。昔話から戻ってきたときの会話が絶品だ。このぞくぞくはたまらない。

*標本箱
 時を刻み続ける石の話。というか、石も時を刻んでいる。生きている。古い風習を破るとよろしくないことが起こるというのは、田舎の方でもまだ残っているだろう。破られかけた風習のせいか「溺れてもいいです」と千江は言う。なんとドラマティックかつ乙女チック。最後にぞくっとする一文が。こういうのがあるからやめられないんだ。

アンティゴネ
 戦時中にギリシャ神話「アンティゴネ」を聞いた子の話。わたしは歴史に弱いの怪しいけどたぶん第二次大戦中かな。戦争なんて国と国がやることだから、逆に国民をまきこまないでくれるって今なら言えるけど、昔は言えなかったんだよね。万歳って送りださないといけなかったんだよね。日本人は死体に執着するというけれど、執着するものだと思う。マニラへ発つという母はギリシャ神話に出てくる美女のようだっただろう。ただし、ギリシャ神話も戦争も、残酷であることに違いはないけれど。

*祝祭
 幼いころは持ち物が少ない。とりわけ、大人の書物など子供が持てるわけがない。大人になるにつれ様々な物質を得るのと引き換えのように、眠りを失った主人公の半生。息をのむほどの風景、死への道は恐らく死んでしまった人も、今生きている人にも等しく荘厳であるのだろうか。手毬に籠った人生がひりひりする。