機械より人間らしくなれるか?: AIとの対話が、人間でいることの意味を教えてくれる
- 作者: ブライアンクリスチャン,吉田晋治
- 出版社/メーカー: 草思社
- 発売日: 2012/05/24
- メディア: 単行本
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この本を書いたブライアン・クリスチャンはブラウン大学でコンピュータサイエンスと哲学の二重学位を、ワシントン大学で詩の美術学修士をを取得されいます。どれが専門かよーわからん。
それにしても、とても面白い本でした。それはそうだ。この本のテーマこそわたしが常々考えている「人間と機械との境界線」について芸術的にかつ詩的に書かれているのだから。
105ページから第四章「ロボットは人間の仕事をどう奪う?」の冒頭からセラピスト・ボット《イライザ》が登場する。イライザはたった200行のコードで書かれている。テンプレート称号と呼ばれる返答を返すだけだ。たとえば「わたしは不幸せなの?」「ここに来ることで不幸せから逃れるための助けが得られると思う?」というように。ただ、イライザは実際に幾人かと人と会話し、その幾人かの人は「有意義な治療を受けた」と報告しているのだ。恐ろしい。
これは合わせ鏡だ。場が違えば心理戦で、同じく場が違えばセラピーになる。面白い。だが、とても怖い。
時を経て《パリー》が登場する。273ページから(第九章「人間は相手の影響を受けずにいられない」)。こちらはいわば患者(妄想型統合失調症)だ。イライザとは正反対の性格であった。イライザは会話の主導を相手に託す。自分は返すだけだから。パリーは会話の主導権を握る。著者はイライザとパリーのやり取りを「ギリシャ神話のスキュラ対カリュブディス」の会話版だと言う。うむ、分かりやすい。
既にAIは人間らしくなっていました。もう判断付かないところまで来ている。チューリングテストによって機械か人間かを見定めるということが、ある意味では逆転しているわけです。「ヒューマンエラーこそが人間である証」とはわたしが勝手に言っただけですが、果てしなくそれに近いのだと思う。
機械は優秀だ。計算速度は早いしルールも守る。人間より正確だ。しかし、人間にできて機械ではできないことがある。それは「芸術」を作ること、だ。絵画でも詩でもいい、想像することは人間しかできない。
133ページ。偉人の名言。
だれでも生まれたばかりの時は芸術家だ。問題は、大人になっても芸術家でいられるかどうかである。─パブロ・ピカソ─
お問い合わせの電話番号に電話をすると、機械が相手してくれることが多い。「○○関係のお問い合わせの場合は1を……」そういうとき、わたしは必ず「その他のお問い合わせ」をチョイスする。人が出てくるからだ。意地が悪いだけかもしれないが、思考する相手と話がしたいんだ。