ジュージュー

ジュージュー

ジュージュー


 ライトなものが読みたくて。これでばななの近作はほぼ読み終わったかな。ハンバーグ屋さんの看板娘の話し。

 ハンバーグ屋の家族が母を亡くすところから始まる。朝倉世界一の地獄のサラミちゃんを愛読していた美しい看板娘だった母。自分は母より劣るけれど、父と母が守ったお店を守りたい、という思いが前半で語られる。

 全体的に緩やかで、急展開もあまりなく、かといって飽きることもなく読み終えた。途中恋が始まったりするけれど、椿の花がぽとりと落ちるような静かさで始まる恋は「生きていく上で誰かを愛することはとても自然」と思わせる。それぐらい当たり前に恋が始まる。

 進一くんという血のつながらない兄弟のような人が出てくるけれど、彼の葛藤は重くて辛い。血のつながった両親とうまくいかない、それだけで十分人生損してるんじゃと思う。主人公があまりにできているから余計に。

 しかし主人公もさらりと書かれているが、相当な葛藤や辛い経験をしている。でもあんまり書かれない。進一の嫁である夕子さんの存在によって、はぐらかされてるようにも見える。でも実際そういうことはあるのかもしれない。誰かがいたおかげで辛いことに直面しても真っ向勝負を逃れられた、みたいなことは。

 148ページ。あまり自分の事を語らない夕子さんと温泉に入っているシーン。夕子さんの背中にはばっさりと切られた跡がある。

「一瞬にして、命から肉になる瞬間を、自分が経験しているのでね」

 物語の舞台はハンバーグ屋だ否が応でも牛肉を使う。牛とは言え肉を扱う仕事だ。命が肉になる瞬間、という表現が響く。大きな連鎖の中に我々人間もいるのだ、と思う。

 物語の本筋は実は122〜123ページの進一の言葉で書きつくされている。大切なことと、大切にしたいことと、希望と。123ページ。とうとうと語った進一に主人公が思う。

 あまりにいい話なので涙ぐみながら聞いていたけれど、自分の名前が出てきたから急に引っ込んだ。

 そういうもんですねー。泥酔から素面に戻ったようないきなり現実感。ばなな独特だな。こういう少しおもしろくて優しい物語は好きだ。

 本の表紙や内側にも朝倉世界一さんのイラストがたくさん描かれている。ポップでかわいい。わたしはサラミちゃんは読んだことないけれど、こんな風に小説と絵を融合させて遊ぶのって大好きだ。ひな菊の人生では奈良くんとやってたけど、あれはもっと詩的で映像のようで、好きだなぁ。ほんわか癒されました。