ぐるりのこと

ぐるりのこと (新潮文庫)

ぐるりのこと (新潮文庫)


 これは単行本でお買い上げ決定。8つに分かれるエッセイ。8つともに共通しているのは、境界線。「沼地のある森を抜けて」の前に書かれたものだそうで、なるほど、これを読んだらもう一度あの小説を読みたくなった。

 このエッセイはとても思い切ったエッセイだと思った。人々があえて口にしない境界線や、そもそもぼやっとしている境界線、うまく言葉にできない境界線をきっぱりと言い切ってくれている。すごく爽やかだ。

「大地へ」「目的に向かう」に目が行く。しかし、一番興味があるのは「群れの境界から」を男性が読んだらどう思うんだろうか、だ。

 日本の男性には──それが必ずしもマイナスばかりでないが──求心力のあるリーダーを待ち望み、まるで磁石を突っ込まれた砂鉄のように、それが見つかるやいなや即座に呼応して、自ら進んで組織の一部になろうとする遺伝子があるのでは、という気がするときがある(個人においてだけではなく、政府の外交方針まで)。強く尊敬の出来るリーダーに忠誠を尽くし、信頼され、安定した群れでの居場所を確保したいという。

 わたしも時折感じる。ちらほらと頭をかすめる日本の社会をつくっている人達は男性が多い。男性が悪いと言いたいわけじゃない。むしろわたしは女性が政治をするのはどうかなという考えの方だ。

 梨木さんはさらに掘り下げる。

アジア社会には、身内を他大事にしすぎ、血筋でなければよりかわいげのある男性が出世し、またその人物が身内もしくはかわいげのある男性を重用するという悪循環で、社会を先細りさせる特徴もある。(けっこう中略)
 その組織性が暴走し、本来その組織性が保証するはずだった精神的・社会的安定を個から奪い、さらにこの声明すら道具に使うようになったら、それは「必要悪」の次元をはるかに超えている。

 この発言は相当な勇気だと思う。それはわたしがチキンだからですか。まぁ、どちらでもよいのだけど、とにかくスパンと言いきってくれていて気持ちがいい。

 しかしこの言葉の後で梨木さんは揺れている。「けれどもそれでも、」と続くのだ。連綿と継がれていくものの確かさを知っているからこその、ぬくもりのある諦めとも開き直りとも取れるのだ。

 言葉にできない気持ちを言葉にするのが文筆家、とまでは言わないが、分かりやすいだけが善じゃない。改めてそう思った。