レモンスカッシュ

 今日はお掃除・お洗濯日ということで布団の洗濯に行ってきた。だいたい1.5時間かかる。業者さんにお願いしたら手っ取り早いけれど、お高いので利用しない。自力でダブルの布団と枕3つを抱えてコインランドリーに行くのだ。

 だいたい晴れた平日の午前中、コインランドリーは人がいない。いても乾燥機に洗濯物を放り込んですぐに出て行ってしまう人ばかり。わたしのように長居する人はそんなにいない。

 今日は珍しく先客がいた。身なりからして近所に住む主婦と思われる。本を読みながら洗濯を待っているようだった。わたしはいつもどおりケチ根性でぎゅうぎゅうに洗濯機に布団とシーツを詰め込んで、外のベンチで漫画を読んでいた。その間、誰も来なかった。青空の気持ちいい、夏の名残より秋の始まりを感じる風が吹いていた。

 洗濯が終わる頃コインランドリーに戻ってみると、先客の女性が眠ってしまっている。洗濯物は乾燥機に移されていたが、止まっていた。余程お疲れだったんだろう。狭いベンチに崩れ落ちるように横たわっている。手荷物もそのままだ。声をかけようか迷ったが、目が安らかだったのでそっとしておいた。

 わたしは自分の洗濯物を乾燥機に移動し、また外のベンチで漫画を読んでいた。すると車がやってきてコインランドリーへ人が。ちょっと心配になって外のベンチからコインランドリーの中に移動した。やってきた人は料理屋さんの亭主といった風情で、白い服をいくつも乾燥機に放り込んでどこかへ行った。

 正直コインランドリーの中より外の方が涼しい。でもなんだか心配で、せめて自分の洗濯物が全部終わるまではここにいようと決めた。方々の窓を開けて風通しを良くした。

 コインランドリーには様々な人が来る。たいてい乾燥だけで済ませる。終わる時間を見越して戻ってくる人もいれば、ぼちぼち放置している人もいる。先ほどの料理屋さんの亭主、ヤンキー姉ちゃん、近所の病院、などなど。さすがに洗濯物の中身までは見ない。出入りする人をぽかんと眺めているのが好きなだけ。どんな風に洗濯物を扱うのか、無心に回る洗濯機、乾燥機、それを見るのがなぜか楽しい。

 結局漫画は放り出し、ぼんやりとそんなことを考えていたら、わたしの洗濯物が全部終わった。できるだけ静かに畳んで車に積んで、ミネラルウォーターを買って、眠っている女性をそっと起こした。彼女はすごく驚いたようだったが、すぐにぼうっとした顔になり、「ああ、すみません、寝てたようで」と言って両手で頬を覆った。わたしは「ここ、暑かったからどうぞ」とミネラルウォーターを渡した。ぼうっとした彼女は受け取って、ぼうっとしたままわたしを見ていた。「荷物、大丈夫ですよ。あんまり人、来なかったです」と、わたしは言って立ち去るつもりだった。

 しかし彼女は立ち上がろうとしてふらついて、またベンチにへたりこんだ。わたしは慌てて戻って「水分補給してからの方がいいですよ」と言って彼女に近づいた。彼女は手荷物からレモンスカッシュの飴を取り出して、無言でくれた。「どうもありがとう」という言葉が聞こえた気がした。

 わたしは「じゃあ、気をつけて」と言ってコインランドリーを後にした。

 疲れているとき、そうだな、わたしが仕事を辞める直前ぐらい、レモンの果実をよく食べていた。とにかく酸っぱいものが食べたかった。

 彼女の疲れはどのくらいだろうか。それを知ることはできない。けれどレモンスカッシュ味は爽やかにしゅわしゅわと口の中で溶けていった。美味しかった。