哀しい予感

哀しい予感 (角川文庫)

哀しい予感 (角川文庫)


 今年は初夏が始まる前に読み終わってしまった。この物語も何度読んでも違う景色を見せてくれる。なんて素晴らしい小説の世界。でもこれは、現実でも起こせる奇跡だと信じている。

 一番好きなシーンはやはりなかったことになったものの山たちのエピソードだ。あそこに集約されているゆきのの造形に恐怖を感じた。たったあれだけのエピソードに詰まっている「人」の「イメージ」がとても精巧に、ではないな、正直に描かれているのね。ここのシーン、本当に好き。

 小説は写真とは違う。けれど写真では写し出せない情景を切り取る。大いなる振りかぶりというのではなくて、本当に伝えようとしたシーンをより正直に文字におこし、物語にすること。それが小説家なんだよな。すごい。一文字のために使うパワーを考えただけですごい。

 わたしが好きな小説には必ずそういうシーンがあり、そのために読み、声に出し、書き写し、浸る。すみません、変態ですね。ううむ、しかしこれがわたしの楽しみ方なので仕方ない。

 改めて読むといろいろと勉強になるし感動もするし、もう様々ありすぎてばななさんありがとうしか出てこない。特にラストに向かっての青森のシーンの美しさ。その風景、二人の仕草、会話、行動すべてが美しい。わたしはこの力強い終わりが好きだな。うん、今回は力強いって感じた、ことを記した。まる。