- 作者: 梨木香歩
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2004/01
- メディア: 単行本
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モダンと不思議が入り混じる不思議な掌握集。しかしこれはどこかで見た風景だ。
最初の短編は「不思議の扉 ありえない恋」に収録されているサルスベリというお話し。これだけでも十分に楽しめたけれど、ここから四季折々主人公の綿貫が過ごす日常がなんとも摩訶不思議なことだらけなのです。時代背景も手伝ってモダンと遠野物語が合わさって、奇妙ながらも腑に落ちる不思議な物語が繰り出される。
化かす化かされる話はよくあるけれど、和尚は愉快で豪快な方でとんちきな話なのに納得できる。というか、こういう世界がわたしは好きなのだな。映像化できるものならしていただきたい。間違いなく美しく、惑うことの方が当たり前だと思うほどだと思う。
ゴローの役割はいわば案内人。何事においても動じない綿貫は抜けているといえば抜けている人間だが憎めない。素直で馬鹿正直なところが魅力なのだ。変わって高堂は人をはぐらかす。元来そういう人であったようだ。でも高堂も憎めない。むしろ背負っているものの大きさを難儀に思う。
出てくる食べ物がとにかく美味しそうだ。特に料理評論家みたいな大仰な描写はないのだけれど、いちいちわたしにとっては美味しそう。
133ページ。筍を取りに。
先だってから急に早春の筍、ほんの小さな、海老芋ほどの大きさの奴が食いたくなって、散歩の帰り、竹藪に入り、何気なく足先で、その気配はないものか探った。土の中に埋もれて、まだ陽の光を浴びない、色の白いところが良いのである。それを炭火であぶってこげ目のついた所に鰹節をかけ、生醤油で食すのだ。
ね、特筆するほどではない旬の味。こういう表現が一番食欲をそそる。
梨木さんって本当にストライクゾーンだな。どの話を読んでも好きだと思う。いやこれは、手元に置いておきたい一冊です。