流れよわが涙、と警官は言った
- 作者: フィリップ・K・ディック,友枝康子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1989/02
- メディア: 文庫
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途中までアジャストメントの原作だと思って読んでいた。うっこりさんです。あれはディックの短編「調整班」だった。
様々な形の愛を描いた、混沌とした怒りと悲しみのストーリー。自分を自分たらしめているのはなんだろう、過去の記憶か、今ここで怒りを抱えている自分か。
舞台はSFというより悪夢のファンタジーと表現したほうが正しい。解説にもあったが、ディック自身が一番辛い時期「二度と経験したくはない時期」にかかれたもので、そのまま小説に持ってきているかのよう。しかし、彼は常に戦っていたのではないかと思う。主人公タヴァナーのように。
あらゆる幻覚が主人公を襲い、自分が自分であることを証明できない=社会に認められない存在であることに怒り、あらゆる手段を尽くして自らの存在を証明する。結局、自分の大切な人に認められさえすればそれでいいはずなのだ。しかし物語りはそう簡単に進まない。様々な社会的問題が登場人物たちをがんじがらめにして襲い掛かる。
なんというか、悲しい物語だ。傑作ではあるのだろうけど、読んでいて辛い。「歴史は『今・ここ・私』に向かってはいない」、と言ったのはフーコーだったか。まさにそうだ。しかし、今・ここ・私の自信を失ったとき──それは最愛の人をなくしたとき、かもしれない──人は涙を流せるのだろうか。