
- 作者: 津原泰水
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2014/04/08
- メディア: 文庫
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津原さんの名前をよく見るので、五色の舟を読みたくなって購入。久しぶり。だけど私のなかで最高の短編小説といえば「五色の舟」だ。
塩鯖は見込みがあるから(あえて上から目線)おすすめしたのだけど、苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。あまりにも可哀そうな話だと。確かに、救いのない人たちの物語かもしれない。
だけど私は再読してやっぱりこれが最高の短編小説だと思う。とんでもなく美しく、とんでもなく純粋だ。そしてどの文をとっても、単語の一つまで計算され尽くしていることが感じられながら、何一つとして嫌らしくない。相当な変態が書いたものだ。
私と塩鯖の違いは何なのかなと、しばし考えてみた。たぶん私はこの小説を、異形の者たちの物語だととらえていないのだ。だから可哀そうとも思わないし、辛そうとも苦しそうとも思わない。むしろ、少しの違いのおかげでより魂のままに生きている人たちの、多少乱暴で、多少的外れで、人間にあってほしいと願う良心や善意がある。
芥川龍之介の藪の中や羅生門(昔の映画のとか)でも似たような気持ちになる。あの人たちは私の中にもいる、だからいたたまれなくなったり、吐きそうになったりする。芥川の小説は基本的に狂気に満ちているから本当に辛い(でも素晴らしいんだけども)。
この手のSFは今までもたくさんあったと思う。でも圧倒的に違うのだ。これと千年女優は(別に塩鯖と読後感が違うからどうとかはないんですよ。でも同じ作品を語れる相手がいるっていいね。世界が広がるからね)。