
- 作者: 川上弘美
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2012/05/18
- メディア: 単行本
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これほど終わってほしくない物語も少ない。ようやく七夜物語の下巻を読み終わりました。優しいけれど優柔不断なさよと、博識だけど思いやりに欠ける仄田くんの夜の物語は終わってしまった。ああ、残念。でもまた本を開けばそこに世界があるのだから、贅沢だね、読書って。
上巻で二人は冒険する。そこでは先生のような何者かが彼らに教えてくれる。でも下巻では自分で考えて動く。大いに迷わされ大いに悩む。けれど悩む時間ももらえないほど、彼らは激しく戦う。
みな大人たちは子供であった。今大人だけで、どの大人にも子供時代があった。忘れているだけだ。
良いか悪いかの二者択一を迫られて、彼らは迷い中途半端なことをしたりする。けれど、それが悪いと誰が言えようか。彼らの判断は彼らの判断なのだから。彼らが正しいと思う中途半端さが、正しいのだ。
無駄に殺しをすることに快感を覚える仄田くんは、そのこと自体に嫌悪する。これが大切なことではないか。快感と感じることが事実だと認めたところで、嫌悪するほうが勝るなら嫌なことなのね。本人が決めたらいいことなのね。
この二人は特別なにかができる子じゃない。むしろどんくさい。けれど惑わされたりさまよったり決めかねたり、それは大人になってもあることだ。大人になれば経験があるから決断が速くなったように感じるが、すべては累積された経験から。でも最終的に決断する時、それは自分が決断するのだ。単にいちいち考えないで、経験則から判断しているだけにすぎない。ときどきでもいいから、立ち止まって「自分で決めたのかな」と確認しなきゃなと思う。
本の隅っこに挿絵がある。小さな挿絵だがとてもかわいらしい。贅沢な本ですよ、まったく。
文体は川上弘美さん独特の擬音語がたくさん出てきたり、言い回しがあったりと、読み応えたっぷり。決して子供だけじゃなく大人も楽しめる。そして、大人だけでなくぜひ子供に、さよや仄田くんぐらいの子供に読んでほしい。