
- 作者: 川上弘美
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/09/21
- メディア: 単行本
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1993年に書かれたデビュー作「神様」が、2011年の福島原発事故を受け、新たに生まれ変わった──。と、帯にあるが、生まれ変わっているのだろうか。
前半に以前の「神様」が、後半に2011年に書かれた「神様」が掲載されている。確かに違う。1993年にはセシウムや半減期なんて言葉は多用されていなかったし、外出するときも放射能がだとか考えなかった。ただ、あの事故以来、異様に耳にするようになった言葉が増えている。それだけだ。だけど、危惧を感じる。日常に危惧を。
わたしは彼女の作品は大好きで、最初の「神様」もなんと侘しい話なんだろうかと思いながら読んだ。そして言葉にできないながらも、好きだと思った。やりづらさ、生きにくさ、伝わらなさ、でも先があることの暗さと明るさが。
わたしはあの事故からなにも変わっていない。ほんの少し、考える時間が増えただけのことで、それ以外何も変わっていない。
川へピクニックに行く二人(一人と一匹の方が正しい?)だが、川までの道のりも、川で遊んでいる人の数がずいぶん違う。みな、2011を経験したら外に出なくなったのだ。でも、逆に必要とされて外に出る人もいるのだ。
クマは変わらず魚を取り、干物にする。お昼を食べる。帰路に着く、別れ際に抱擁する。後半の「神様」では帰宅後に総被爆線量を計算する。見えないものを測っている。
この単行本で一番心に残るのはあとがきの部分だ。ウランの神様かぁ、と思った。物に意思があると、思うことは多々ある。花も木も頼まれもしないのに咲かせたり伸びたりする。特に仕事上、プログラムにさえ意思があるんじゃないかとか思うことは何度も何度もあった。でも、神様がとは思いが及ばなかった。
本当に、ウランの神様はどう思ってるんだろう。見つかりさえしなければひっそりと衰退していったであろうウランたちは、わたしたちを恨んではいないんだろうか。
人が手を出してはいけない領域がある、という物語はいくつもあります。それは昔話ではなくて、今でもそこにあるものなのだ、と、ごく当たり前のことをわかりやすく目の前に提示してくれた本でした。