
- 作者: 吉本ばなな
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2002/09/30
- メディア: 文庫
- クリック: 21回
- この商品を含むブログ (82件) を見る
ちょっと調べものしてたら勢いで読んでしまって。
アムリタ(サンスクリット語: अमृत、amṛta),
甘露は、インド神話に登場する神秘的な飲料の名で、飲む者に不死を与えるとされる。 乳海攪拌によって醸造された。
本当に素晴らしい、この本こそがアムリタ。
「大団円って言葉知ってる?」
真由が言った。
弟は首を振った。真由は、必死で言葉をたぐって言い続けた。
「そういうものが見えれば、私はもういいの、本当に。私はいつかまた人生をくりかえすときもあるかもしれないけど、今度は急がない。私は急いだだけ。あとは誰も悪くない。そう思ってる。由ちゃんも早熟だから気を付けて。私みたいに急がない絵。お母さんの作ったごはんとか、買ってもらったセーターとか、よく見て。クラスの人たちの顔とか、近所の家を工事でこわしちゃうときとか、よく見て。空が青いのも、指が五本あるのも、お父さんやお母さんがいたり、道端の知らない人とあいさつしたり、それはおいしい水をごくごく飲むようなものなの。毎日、飲まないと生きていけないの。何もかもが、そうなの。飲まないと、そこにあるのに飲まないなんて、のどが渇いてしまいには死んでしまうようなことなの。ばかだからうまく言えないけど、そうなのよ。」
「神様が飲む水っていう意味なんだ。甘露ってよくいうでしょ。あれ。生きていくっていうことは、ごくごくと水を飲むようなものだって、そう思ったんだ、なんとなく。」
最近、こういうことをつくづく感じる。生きるということは、おいしい水をごくごくと飲まねばならないもので、それは義務でも強要されるものでもなく、それこそが喜びであって。喜びというと大仰にとらえる人もいるだろうけど、そもそも心が平らな状態は喜びと呼んでもいい状態なんじゃないかな。だとしたら、なんてことはない平穏という日常をごくごくと味わうことこそ「人が生き続けていくことに必要なこと」なんじゃないかなと思う。
そして、そのごくごくを一緒に味わえるのが、同じ甘露で同じように潤うことができるのが、家族なんだろうなって。